🔥妄想短編小説:プーさんおじさん薪王になる

妄想短編小説

第1話「密輸薪と謎の取引」

いつもの焚き火動画

――カメラが静かに回り始める。
「こんにちは、プーさんおじさんです。今日はこの森で、最高の焚き火タイムをお届けしますよ~」
いつもの優しい声。麦わら帽子に迷彩のマスク、どこにでもいそうな癒し系キャンパー。

画面の中では、絶妙なサイズに割られた薪が、丁寧に組まれていく。
火をつけた瞬間、ふわりと広がる芳醇な香りと、青白く揺れる焚き火の炎。視聴者たちはコメントで絶賛する。

「なにこの薪、音も香りも最高すぎる!」
「どこで手に入るんですか?売ってほしい!」
「火の付き方がプロすぎませんか?」

プーさんおじさんは笑ってこう答える。
「ふふ、ちょっとしたルートがありましてね……」
でも、それ以上は語らない。

――その薪が、どこから来たのか。なぜそんなにも質が良いのか。誰も知らない。

カメラが止まった後

日が沈み、動画撮影が終わると、プーさんおじさんの表情が変わる。
口数が少なくなり、足取りも鋭くなる。

林道を奥へと歩くと、そこには薪を満載に積んだ黒の軽トラ
待っていたのは、フードをかぶった若者──コードネーム「カリカリ」。

「薪王、例の白樺(しらかば)ロット、なんとか入荷できました」
「ご苦労。南のキャンプ場には明朝届けてくれ。代金は例の通貨で払っておく」

彼が言う「例の通貨」とは、キャンプマニアたちの間で密かに流通する仮想通貨「LOG(ログ)」。
焚き火用の薪の種類・質・香りによって価格が変動する、謎の市場が存在していた。

■終わりに

取引を終えると、薪王プーさんおじさんは月明かりの中で独りつぶやく。
「…政府が規制を強めてる。近いうちに、”アレ”も動くかもな…」

視線の先には、闇に消えた一台のヘリ。
その下にあるのは、焚き火禁止区域とされたはずの、かつて自由な炎が灯っていた森だった。

――表ではキャンプの癒しを広め、裏では薪の流通を守る男。
その正体を知る者は、まだほとんどいない。

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